last update 2004.09.19


2004年9月19日(日)
書店の中の赤いトンボ。



僕の頭脳、きっと健康を失っているんだろうけど、ときどき、現実感を見失って、夢だかなんだかわかんなくなる。

先週。映画を作る日々の中、僕は赤いトンボを見た。
五反田の交差点にある書店の店内に、迷い込んでいた。
目当ての本を探す僕の目の前を、何度もゆっくり往復し、僕の指先にとまりそうになる。
「捕まえようか」
と僕は迷う。きっと今、すばやく手を動かせば捕らえられる。僕は飛行する昆虫を手づかみするのが得意なのだ。迷いながら、またも僕の頭脳は、唐突に現実感を見失う。書店に立っている僕のまわりから、現実感が失せてゆく。

ちょうど2年前。同じ交差点で、僕は同じ種類のトンボを見た。あの時は書店の中ではなく、出入り口のところだったけれど。
あの時も僕は、現実感を失った奇妙な気分の中で、僕の目の前のトンボを、ふわりと捕まえてしまった。トンボは、僕の指にはさまれて動かないハネを震わせた。僕は「ごめんごめん」とつぶやいて彼を放し、現実に帰った。

もっと前、5年も前に、淀川で黄色いインコを見た時のことを思い出す。あの時も、なぜか僕の目の前にインコが舞い降りて、僕は現実感を見失ってしまった。なんだか、そのインコが僕自身のような気がして、
「捕まえたらヤバイかも、やめた方がいいかも」
と迷いながらも、つい、ジャージの上着をふわりとかぶせて捕らえてしまった。僕はインコのぞっとするような悲鳴を聞いて後悔し、すぐに逃がした。

また「ごめん」とあやまったり、後悔したりするに決まってる。僕は今、目の前の赤トンボを、今度こそ捕まえないで置こう、と考える。
いやいや、しかし捕まえて、外に逃がしてやらないと。やがてこのトンボ、冷房の効いた店内で、食物もなく、力尽きて死ぬんじゃないか? いやいや、きっと店員が助けてくれる。あるいは、トンボは自力でなんとかするさ。

なんてことを迷ううち、突然、ツイ、と、トンボはどこかに消えた。そうして僕はまた、現実に戻った。

違うかもしれない。トンボやインコが現れた時こそ、僕は現実にいて、今また、ファンタジーの世界に戻ったのかもしれない。
赤いトンボ。黄色いインコ。あとは青いなにかが僕のところにやってくれば……ん? そういえば、先日見た夢の中に、青い宝石みたいな魚がいたな。僕は、あの魚も、捕らえずにおいたんだっけ。


僕ら人間の内面は、宇宙の相似図形だ。
心を平和にできないようなら、宇宙を平和にすることはできない。
心の中の怒りや憎しみに、愛やユーモアを勝たせなければならない。
怒りや憎しみに我を忘れ続ける限り、戦争は続く。
「若者よ、怒れ」というジジイどもの言葉を聞くな。
彼らが戦争を終わらせられずにいる理由はそれだ。
怒りを知り、なおかつ怒りに勝つんだ、僕たちは。



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