10月の始めの週。
僕は新幹線に乗って、1日だけ、名古屋に戻った。
妻は機嫌が悪かった。
僕は、考えられる全てのことを謝って、それでも彼女の機嫌は直らなかったので、しかたなく、ひとり眠った。
眠りながら、薄い意識の中、妻が僕の頬をなでているのに気が付いた。僕は嬉しかったけどあまりに眠く、また眠りの底に落ちた。
朝、目覚めると、彼女は隣で眠っていた。
そのまま、僕は新幹線に乗って大阪へ向かった。
僕の昔の劇団。
2000年に解散した仲間たちの、あの頃の芝居の記録映像を見る、そういうイベントに参加するためだ。
記録映像は、どれも素晴らしかった。
不鮮明な画像。音声。
だけど、残しておいてよかった。
僕らが一緒に夢を見ていた頃、なにも疑わず、熱くひとつになっていた頃。あの日々は、幻ではなかった。
画像を見てやっとそれを思い出すなんて、僕も薄情なオッサンになってしまったものだ。
だけど思い出したよ。
あの頃の仲間の皆、本当にありがとう。
観客席の皆も、本当にありがとう。
大阪に滞在する間、僕は自分の実家に、1週間泊まった。
結婚以来、ほとんど泊まったことはなかった。
弟や妹や母と、ひさしぶりに長く話をした。
皆、僕のことを心配してくれていた。
母の誕生日を、兄弟皆で祝うこともできた。
姪と甥がいっぱいいて、弟の手作りケーキの下を走り回っていた。
奈良にある妻の実家へも、ひとりで行ってみた。
妻の妹が娘を産んだばかりだったので、赤ん坊の顔を見たかった。
輝かしい顔だった。
僕だけで来たのに、奈良の父と母はがっかりもせず、たくさんごちそうしてくれた。
美味い佃煮をおみやげに包んでくれた。
父が、目の手術をして、よく見えるようになったと嬉しそうに話した。
友人の劇団のトークショーにも出てみた。
楽しかった。
昔の仲間が見に来てくれていた。
そして、10日ぶりに、僕は東京へ戻ってきて、それからまた、ずっと脚本を書いている。
眠る時間と起きてる時間を、キーボードでカフェオレみたいにかき混ぜながら、気付くともう5日たった。
帰ってきてからずっと東京は、天気が悪かった。なにか天候の異常があるらしく、ニュースでも東京の灰色空について、誰かがしかめツラで喋っていた。
今朝、脚本書きながらうたた寝して、起きてみると、一面の青空。
別の国にきたような、明るい光。
それで僕は、この10日間のことを、ちょっと書き記しておくには、今日がいいんじゃないかと思ったのだ。