last update 2004.11.26


2004年11月26日(金)
鎧。



海は嵐になった。
僕の乗っていた船は沈んでしまった。
僕は仕方なく、体に備わった、重力をコントロールする力を利用して、空を飛んでゆくことにした。

重力をコントロール出来る者は少ない。
目的の大陸まではまだ遠い。体につけた鎧と剣が重い。嵐はますます激しい。

僕の腹心の部下である、鼻の長い男が、必死で重力をコントロールしてついてきている。
彼が後方を指さした。

また、あの貴族の男が、追ってきていた。
僕のことを、家族の仇を思いこんでいる。
彼もまた、重力をコントロールできる力を持っていたのだ。

「仇!」

彼は刀を抜き、僕に襲いかかってきた。僕は仕方なく応戦した。
暗く荒れた海の上、灰色の空で、たがいの鎧と、たがいの剣が、火花を散らした。

彼は強く美しく高潔な剣士だ。いかに勘違いで僕を襲って来たとはいえ、殺すには惜しい。
しかし僕とて、大陸で待つ妻のもとへ、なんとしてでも行かねばならない。
ここで海に落ちるわけにはいかない。

部下が心配そうに見守る中、僕と貴族の男は何度も剣を打ちつけあい、
やがて僕の力がまさって、彼の鎧を全てうち砕いた。

砕けた鎧が落下して、波に飲まれた。
そして貴族の男自身もまた、力つきて、海に落ちようとした。

僕は彼を空中でだきかかえた。
「何をする、捨て置け」「共に大陸へゆこう」
彼の誤解を解きたかった。

彼の、まるで綿毛のようなマント、それが受ける風に助けられ、
僕はぎりぎりの揚力を得た。

やがて僕ら3人は、大陸沿岸まで、海面すれすれで到達した。
波打ち際は、広い面積で、緑の海藻に覆われており、波がおだやかだ。
まだ灰色の空の下、僕は安堵した。

鼻の長い部下も、安堵して、気を緩めたのだろう。
彼は、ひとこと僕の名前を呼ぶと、
海に落下した。

緑の藻の中に飲み込まれ、彼は二度と浮かび上がってこなかった。

僕は、自分の腕の中から、貴族の男が滑り落ちてゆくのを感じた。
滑り落ちるのを止める握力を、僕は失っていた。

彼は何も言わず海面へと落下し、そして、同じように、
緑の藻のなかに消えた。

とうとう僕はひとりになってしまった。

僕は彼らふたりを探そうと思ったけれど、もはや、
どこまでも続く海藻の波打ち際の、どこに彼らが落ちたのか、
わからなくなってしまっていた。

こうして僕は結局、ひとりで、妻のもとへゆくことになったのだ。


もちろん、夢の話なんだけど。



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